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東京家庭裁判所 昭和61年(家イ)2683号 審判

申立人 ロバートキャッシュ

相手方 玉本千代

主文

申立人と相手方を離婚する。

理由

1  本件記録によると次の事実が認められる。

(1)  申立人(オーストラリア国籍)と相手方は、昭和59年4月20日婚姻した夫婦であり、そのころからアメリカ合衆国ルイジアナ州で居住し、同年9月ころからは同国ニューヨーク市で居住していた。ところが、相手方は、申立人と相手方の将来に対する考え方のちがい等から、次第に申立人と生活することに疲れ、昭和60年9月15日には申立人と別居し、そのころから、他の男性と同居を始めた。申立人と相手方は、昭和60年10月にはビザの書換えのために日本に帰国したが、相手方は同年11月に再び渡米し、肩書住所地で前記男性と同居している。一方、申立人は、そのまま日本に滞在し、肩書住所地に居住して語学学校の教師として生活している。

(2)  その後、申立人と相手方は互いに離婚する旨合意し、申立人は本調停を申し立てた。相手方は、米国に在住しているため調停期日に出頭しないが、代理人を選任し出頭させているほか、当裁判所(家庭裁判所調査官)あての書面で、調停には出頭できないが、調停で離婚できることを望んでいる旨の意思を表示している。

2  そこで検討するに、当該事実関係の下では、相手方が申立人を悪意で遺棄していると考えられるから、相手方の住所がアメリカ合衆国にあるとしても、申立人の住所地であり、相手方の国籍地であつて、かつ、相手方が代理人により任意に出頭している我が国に国際裁判管轄権が認められる。

3  次に、我が国の法例16条によると、離婚に関する準拠法は夫の本国法たるオーストラリア国の法律によることとなる。しかるに、オーストラリア国の国際私法によれば、離婚につき当事者の一方が〈1〉オーストラリア人か、〈2〉オーストラリアに住所があるか、又は〈3〉オーストラリアに1年以上居住しているときは、その裁判管轄権を認め、その場合法廷地法を適用することとされている。したがつて、当事者の一方たる相手方が日本人である本件においては、隠れた反致が成立し、国際裁判管轄権が認められ現に審判を行う我が国の法律が法廷地法として準拠法となると解せられる。ところで、我が国の民法770条1項2号によれば、配偶者から悪意で遺棄されたことは離婚理由となるのであるから、申立人の離婚の申立は認容されるべきである。

なお、隠れた反致を認めず、離婚に関する準拠法を法例16条に基づきオーストラリア国法と解したとしても、本件においては婚姻関係が回復できない程度に破綻し、かつ、当事者は別居の日以後婚姻の解消を求める申立の日の直前まで少なくとも12箇月以上継続して別々に暮していたと認められるので、オーストラリア国の法律に基づく離婚の要件を満たしていると考えられる(本件申立は別居後12箇月以上経過後に申し立てられたものではないが、本件第2回調停期日は別居後12箇月経過後に開かれるので、本件申立がオーストラリア国法にいう要件を満たしていないとまでいう必要はない。)。

4  申立人は主文同旨の調停を望んでおり、他方、相手方は、本人自身は調停期日に出席しないものの、本調停における離婚の成立を希望している。そこで、本件調停は本人不出頭を理由に成立させることができないが、本件においては家事審判法24条に基づく審判を行うことが相当であると認め、家事調停委員澤木敬郎、同長村滋の意見を聴き、主文のとおり審判する。

(家事審判官 山名学)

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